日本ジャズ界のリアル・ビッグ・ボス!2021年11月20日、誰も想像しなかった事が起こる

[2021.11.19]
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森山威男さんのレコードを初めて買ったのはいつの事だっただろうか?

10代前半でYMOにハマリ、そこから高中正義や増尾好秋を経て日野皓正や渡辺貞夫に辿り着き、20歳の時にUKの雑誌"i-D"のジャズ・ファンク特集で川崎燎やタイガー大越がロンドンのダンス・フロアーではダンス・ミュージックとして再生されていることを知った。
そして、30年前、やはりロンドンで、コレクターにしてディーラーのJohn Cooperのお宅にお邪魔した際に『NATURE』を勧められ板橋文夫の名前を意識するようになる。

あれは確か、神戸の三宮の高架下の中古レコード屋だったと記憶している。
その板橋さんが参加した森山威男さんのアルバムに出会ったのだ。

国内外のジャズ・レジェンドに運良く数多くお会いする機会を得た僕だったけれど、森山さんにお会いすることはなかった。

2020年に再出発の話が湧き上がったTCJFはコロナで立ち消え、2021年の明日、7年ぶりに実現することになる。

2020年の国内の状況から前半の絶望的な状況を予測することは難しくなかった。

しかし、海外の音楽シーン復活の情報を参照し、僕は、2021の後半に開催を決意したのだ。

5末に代官山のUNITでレコード会社の英断によりDJ KAWASAKIのリリース・パーティーを敢行したことがその布石だったし、何よりも実行委員からの熱い要望と文化庁からの助成金が決定したことが大きかった。

問題は、これまでのように海外ミュージシャン&DJを招聘することがほぼ不可能だったこと。

故に僕は、国内アーティストで海外のオーディエンスが羨むライン・アップを組み立てることをコンセプトにしたのだった。

松浦君、須永さん、NORIさん、MURO君、JIN君、KOCOちゃん、SARASAにMITSU君に野崎君に雅也に瀧見さんにKASHIさんに黒田さんにヨシヒロと・・・DJ陣は、海外に呼ばれる実力者が勢揃い。

このメンツだけの、フェス、海外でやれるような・・・。

ライブ・アクトを誰にするかを考えた時にアルバムからのシングル・カットが決まっていたDJ KAWASAKIは自然な流れで候補に挙がった。

ヘッド・ライナーを誰にするか?そこが重要だった。

日本に来れないオーディエンス、日本のアーティストを自国に呼べないプロモーターが指を咥えるであろうTCJF的にベストなチョイスは誰かを考えに考え抜いた。

KJSの類家君が森山さんとの共演をSNSにアップしていたことを思い出した僕は森山さんをフィーチャーしたKJSのライブしかない!と確信に至ったのだ。

僕が選び出した森山さんの代表曲は以下。

Moriyama Takeo Sextet - Forest Mode

Kaze

Takeo Moriyama Quartet - No More Apple [1982 Japan Jazz]

セッション'79 森山威男クァルテット「サンライズ/グッドバイ」

Takeo Moriyama - Watarase (Fumio Itabashi)

昨日、森山さんとの1回目のリハーサルを行った。

エレベーターのドアが開いて現れた森山さんは僕の想像とは違って小柄で驚いた。

それでも黒の上下でボアつきのバックスキンのレザー・ジャンパーを着こなし、その貫禄としぐさから漂う大物感は半端ない。

日ハムの新庄に便乗し、クラブ・シーンのビッグ・ボスなんて嘯いている僕だけど・・・森山さんは、その風貌も存在も日本ジャズ界のリアル・ビッグ・ボスだ!!

SHUYA OKINO & TAKEO MORIYAMA

リハーサルが始まるや否や僕は、その尋常ではないパワーに圧倒される。
あの小さな身体からどうやってそのエネルギーが大放出されるのだろうか?

音のシャワー?いや、音の滝!しかも大瀑布!!

シンバルにバスドラにスネアにタムにハイハット。

鳴る音全てが明確で、耳に、ではなく身体に響く大音量。
スタジオのドラム・ブースに音の粒が充満する錯覚に陥った。

それを全身で浴びた僕はさしずめ、修行僧のような気持ちにもなる。

とにかく、76歳とは思えない健在ぶり。

お話を伺えば、コロナで演奏する機会がなくなり何度も引退を考えたそうだ。

一度横になってしまうと起き上がれない程、体力が落ちていたとも仰っていたのに一念発起して自宅スタジオにドラム・ブースを組み立てトレーニングを開始されたらしい。
最初は全身に痛みを感じたそうだが、叩き続ける内にその苦痛は消えて行ったと・・・。

そんな状態だったとは思えない位、迫力ある演奏に僕は呆気に取られていた。

僕からのオファーが森山さんのドラマーとしての本能を呼び起こすきっかけの一つになったとしたら身に余る光栄。

別記事でも書いたけれど、若いドラマーが、新しい時代のジャズの象徴のように語られる昨今。
レジェンドと彼の過去の代表作を演奏してそれはノスタルジックなのではないのか?と思われる方がいるかもしれない。

しかし、今回リハでお借りしたStudio DedeのマジックとKJSの面々の力量と森山さんの溌剌とした生命力溢れる演奏が一体となり、ミラクルを起こす。

過去の音楽ではない。完全に現在(いま)の音楽なのだ。

それは、彼の代表曲の普遍性による所も小さくないがやはり、森山さんとメンバーが生み出すグルーヴは、それぞれの音楽体験のレイヤーをベースに紡ぎ出されているのだと思うし、何よりも今を生きる人の感情とコミュニケーションによって我々のジャズは成立しているからだ。

森山さんが、エレベーターから出て来られて最初に発せられた言葉は「貴重な機会をありがとう」だった。

そして、「また演奏出来るとは思わなかった」とも。

僕の方こそ出演に感謝しているし、まさか森山さんと一緒にKJSが演奏出来るとは思わなかった。

2021年11月20日、誰も想像しなかった事が起こる。

2021年11月19日
Tokyo Crossover/Jazz Festival 発起人
沖野修也